生活と環境 科学者の目       (2012-003)


福島原発事故に関する国会事故調査委員会の報告書が国会の衆参両院議長に提出されました(2012年7月5日)

【コメント】 
  野田首相が原発再稼動を決定する前に、なぜ、この国会事故調の報告書が国会に提出されなかったのでしょうか? 印刷物の完成が遅れたとしても、文書ファイルは完成していたはずであり、政府が再稼動決定する前に、国会に提出することは充分にできたと考えられ、非常に残念でなりません。

 それでも、国会事故調の黒川清委員長は5日の記者会見で、「提言を着実に実行し、不断の改革の努力をつくすことが国民から未来を託された国会議員の使命だ」、「事故はまだ終わっていない。この提言の実現に向け動き出すことが事故で失った世界や国民からの信頼を取り戻すことになる」と述べられた点は評価できるものだと思われます。

 また、事故調の提言は、適切な事項は多いのですが、あくまでも提言であり、拘束力のないものであり、国会が提言を受けて、どのように活用するのか、政府に責任ある対応を実践させるための動きに注目です。国民の視点で、政府の活動を監視していく専門家(推進派ではなく、科学的・政治的に中立の)委員会を国会に設置し、権限を有する組織として活動させることが必要ではないかと思われます。要注目です。


 【報告書の内容について】    事故調報告書へリンク
  
  「官邸、規制当局の危機管理意識の低さが住民避難の混乱の根底にある」など、これまで官邸や規制当局に対する評価は、的を得ており、評価できると思います。

  「地震・津波対策を立てる機会が過去、何度もあったのに、政府の規制当局と東電が先送りしてきた。」と批判し、その背景に「組織的、制度的問題」があると指摘しています。事故の根源的な原因として、経済産業省と密接な関係にあった東電が、歴代の規制当局に規制の先送りや基準を軟化するよう強い圧力をかけ、「規制する立場と、される立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電気事業者の『虜(とりこ)』になっていた。その結果、経産省原子力安全・保安院の「原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた」とし、東電を「自らは矢面に立たず、役所に責任を転嫁する黒幕のような経営体質」と断じています。。

 また、06年の段階で福島第一原発の津波対策をめぐって、04年のスマトラ島沖大津波を受けて国が東電に対策の検討を要請し、08年には東電が福島第一原発で最大15.7メートルに達すると試算していた。このような大津波が襲ってきた場合、海水ポンプが機能喪失し、炉心損傷に至る危険があることは、保安院との間で共有されていた。改善が進まなかった背景については3つの問題があるとされています。

  1つの問題は保安院が津波想定の見直し指示や審査を非公開で進めており、記録も残しておらず、外部には実態がわからなかったこと。第2には、津波の高さを評価する土木学会の手法は電力業界が深く関与した不透明な手続きで策定され、保安院が精査しなかったこと。第3は、東電は低い津波発生頻度を根拠として対策を施さないことを正当化しようとする一方、津波の確率論的安全評価が不確実であるという理由で対策を先延ばしにしてきたこと。また、東電の対応の遅れは保安院も認識していたが、具体的な指示をしなかった。

  日本では、過酷事故(シビアアクシデント)対策は、自主対策をとされ、高い信頼性が求められず、従来の安全設備よりも先に機能を失う可能性が高いという矛盾を抱えた実効性の乏しい対策となっていた。その検討、整備も海外に比べ大きく送れた。事業者の自主的な対応であることは、電気事業連合会を通じ、規制当局に積極的に働きを行う余地を与えた。折衝方針には、最新の知見を既存原発に適用する「バックフィット制度(既設炉にも最新基準への適合を義務付ける制度)が行われないことなどが挙げられ、確立は低いが壊滅的な事象を引き起こす

 菅元首相や東電の責任については明確に指摘し、人災と断定しています。しかしながら、現政権が収束されていないにも関わらず、収束したと発表するなどの責任についてはあまり追求されていません。


報告書ダイジェスト内容 【報告書電源喪失原因など調査・検証が必要】

事故の進展と総合的な検討

 東電経営陣は福島第1原発の耐震工事が進まず、津波による溢水(いっすい)対策もされていない状況を把握していたと考えられる。さらに事前の過酷事故対策も限定的だった。東電新福島変電所などからの送電機能を失い全号機で外部電源喪失となった。全交流電源喪失で仮定していない直流電源も失われた。過酷事故対策に不備があり、マニュアルも事前準備もなく、運転員、作業員に十分な訓練もしていなかった。原子炉の圧力を下げるベント(排気)も図面が不十分だった。東電の組織的な問題と捉えるべきだ。

 1、3、4号機で水素爆発が起き、2号機では格納容器の破損が生じたと推測される。5、6号機では炉心損傷が回避されたが、2、3号機ではさらに悪い状況が起こり得た。炉心の状態は把握できず、事故はまだ収束していない


未解明部分の分析・検討

 重要な機器・配管類のほとんどが実際に調査、検証できない原子炉格納容器内にあり、多くの重要な点が未解明。しかし、東電は事故の主因を津波とし「安全上重要な機器で地震により損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告書に明記し、政府も事故報告書に同じ趣旨を記している。国会事故調は以下6点で今後規制当局や東電による調査、検証が必要と認識した

(1)原子炉緊急停止の約30秒後に激しい揺れが襲い、50秒以上揺れが続いたため、地震動で無事だったとはいえない。基準地震動に対するバックチェックと耐震補強がほとんど終わっていなかった事実を考えると、地震動は安全上重要な設備を損傷させる力を持っていたと判断される。

(2)地震発生直後に大規模な「冷却材喪失事故」が起きていないことは、津波襲来までの原子炉の圧力、水位の変化から明白。しかし、配管の微小な貫通亀裂から冷却材が噴出する小規模事故の場合、原子炉の水位、圧力の変化は、亀裂がない場合とほとんど変わらない。小規模事故でも約10時間放置すると数十トンの冷却材が喪失し、炉心損傷や炉心溶融に至る可能性がある。

(3)事故を決定的に悪化させた非常用交流電源の喪失について、東電と政府事故調の中間報告書、保安院の全てが「津波による浸水が原因」とし、津波第1波は午後3時27分ごろ、第2波は午後3時35分ごろとしている。この時刻は、沖合1.5キロの波高計の記録時刻で、原発への到着時刻ではない。少なくとも1号機の非常用交流電源喪失は、午後3時35分か36分とみられ、津波によるものではない可能性があることが判明した。電源喪失は津波による浸水と断定する前に、基本的な疑問に対する筋の通った説明が必要。

(4)地震発生当時、1号機原子炉建屋4階で作業していた東電の協力企業社員数人が、出水を目撃。国会事故調は地震によって5階の使用済み燃料貯蔵プールの水はあふれていないとほぼ断定した。しかし、現場調査ができないため、出水元は不明。

(5)1号機の非常用復水器は、午後2時52分に自動起動、11分後に復水器を2系統とも手動で停止。東電は一貫して「操作手順書で定める原子炉冷却材温度変化率を順守できないと判断した」と主張。しかし、複数の運転員は「原子炉圧力の降下が速いので冷却材が漏れていないかを確認するため復水器を止め  た」と説明した。この説明は合理的で判断は適切だが、東電の説明は合理性を欠く。

(6)1号機の逃がし安全弁(SR弁)は、実際に作動を裏づける記録が存在しない(2、3号機には存在)。2号機は、中央制御室や現場でSR弁の作動音が頻繁に聞こえたが、1号機SR弁の作動音を耳にした者は一人もいないことも分かった。実は1号機SR弁は作動しなかったのではないかとの疑いが生まれる。1号機では地震動による小規模の冷却材喪失事故が起きた可能性がある



 ※ 提言3は、直接的に国民の生活に密着した問題である「被災住民に対する政府の対応」についてですが、抽象的な部分が多く、どのように実行させるか、具体策に欠ける内容であるので、これを受けた国会や政府の取り組み次第であると思われます。

【その他、報告書の内容に不満な点
  
  菅元首相や東電の責任については明確に指摘し、人災と断定しているようです。しかしながら、現政権が収束されていないにも関わらず、収束したと発表するなど、これまでの福島第一原発事故後 の対応については追求されているとは言い難いものです。

  被曝を余儀なくされている国民に対する政府の対応は、不十分であると思われますが、その責任には言及されていません。事故調査委員会が、事故の調査が目的であるとしても、被曝住民の救済や放射能汚染等の実態やその対策についての提言が無いことは残念です。また、政府の脱原発依存の方針についても言及されていなかったことも残念です。 低線量被曝の健康に対する影響については、様々な説があり、現在までには結論が出ていないのです。国際的にも低線量被曝の健康に対する影響についての研究が進められている最中であり、この研究に関する対応や万が一のリスクも考慮した予防的な措置など提言することはできたはずです。



民主党政策調査会は、民主党エネルギープロジェクトチームが作成したエネルギー政策見直しをめぐる中間報告を了承し、近く政府に提出されるそうです

 国会事故調査委員会の報告書が提出された日に、民主党政策調査会は、民主党エネルギープロジェクトチームが作成したエネルギー政策見直しをめぐる中間報告を了承し、近く政府に提出するとの報道がありました(7月6日東京新聞)。

 その報道によると、中間報告では政府が打ち出した「脱原発依存」の方針を曖昧にし、原発の運転継続を容認する内容が随所に盛り込まれており、世論が求める「脱原発」よりも、推進議員の意向に配慮したもので、「脱原発依存」について明確には言及せず、「原子力発電への依存度をできる限り低減させる」と表現を弱め、将来的な「原発ゼロ」に向けた考え方についても触れていないとのことです。

 その他、政府方針で「原発は原則四十年で廃炉」としていることについては「四十年運転期間制限の導入を念頭におきつつ、中長期的な視野で検討を進める」と述べるにとどめたものとなっているとのことです。



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