生活と環境 科学者の目       (2012-004)


福島原発事故に関する政府事故調査委員会の報告書
総理に提出されました
(2012年7月23日)

  東京電力福島第1原発事故の政府事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)が、23日、最終報告書をまとめ、総理に提出しました。 最終報告は、「東京電力を含む電力事業者も国も、我が国の原子力発電所では炉心溶融のような深刻なシビアアクシデントは起こり得ないという安全神話にとらわれていたがゆえに、危機を身近で起こり得る現実のものと捉えられなくなっていたことに根源的な問題がある」と結論付けています。また、事故の深刻化の背景に、東電の初動対応の不手際、政府の避難指示や情報発信などで被災者の立場を踏まえていなかったことなどが挙げられ、事前の津波対策も不十分で、東電や政府、地方自治体に「複合的な問題があった」としています。 再発防止策として、広域で甚大な被害をもたらす事故・災害に対しては発生確率に関係なく対策を行うという新たな防災思想の確立が必要など25項目を提言した。

   報告書は、福島第1原発1〜3号機の現場対処に問題があったと改めて認定し、2、3号機では同じように津波に襲われた福島第2原発での対応と比べて不手際が浮かび上がったとしています。  第1原発3号機では、代替注水手段を準備しないまま冷却装置を手動停止し、6時間余り冷却が中断したのに対して、第2原発では、注水の切り替え前に代替装置が機能するか確認した上で作業したと指摘しています。3号機の対応は「適切さを欠いた」と問題視し、2号機での注水の準備態勢も不適切であったと結論づけましたが、1〜3号機の地震による配管などの損傷は否定しており、国会事故調の報告書と異なる結論を導きだしています。

   政府の初動についても問題視しており、福島県飯舘村方面に放射性物質が広がった昨年3月15〜16日、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を活用していれば、被ばくは最小限に抑えられたと評価しています。経済産業省原子力安全・保安院が当初の会見で、強く炉心溶融を否定したのは、関係者の対応を誤った方向に導き「極めて不適切」と指弾しています。 このほか、文部科学省が学校の利用判断基準を説明する際に使った「年間20ミリシーベルト」は、許容量と受け止められてもやむを得ないことだとして問題視しました。  また、菅直人前首相らは官邸5階にいて、関係省庁の幹部が集まった官邸地下の危機管理センターを利用しなかったことにより、SPEEDI活用の機会を失ったと分析し、菅氏の対応も「原発視察などの現場介入は弊害の方が大きい」と断じました。

  被害拡大の背景に、東電と保安院の津波や過酷事故対策が不十分であったことに言及し、具体的には東電が08年、社内で第1原発に15メートル超の津波が来る可能性を試算しながら、対策に活かさないなかったことなど「大津波への緊迫感と想像力が欠けていた」と批判しています。

  東電などが実施したコンピューター解析結果について、不都合な実測値を考慮せず「信用できない」と認定し、不十分さを認めても再解析しない東電の姿勢を「真相究明への熱意がない」としています。菅氏ら官邸にいた政治家らが東電から伝えられたとする「全員撤退」では、考えていなかったとする東電の主張を認めています。

   調査は昨年6月に始まり、関係者772人から延べ1479時間にわたって聴取しました。報告書は本文編と資料編の計826ページに及び、政府事故調WEBサイトで閲覧できるようになっています。

政府事故調WEBサイト   http://icanps.go.jp/
 最終報告WEBサイト   http://icanps.go.jp/post-2.html

 結局のところ、政府事故調の提言も、適切な指摘事項は多いと思いますが、あくまでも提言であり、拘束力のあるものではありません。政府が提言を受けて、どのように活用するのか注意して見つめていきたいと思います。 民主主義国家「日本国」であるならば、国民の血税で行なわれた調査の報告書(少ない額ではなく、多大な時間を要しています)を無駄にしてはいけないと考えます。国会事故調の報告書も国会両院議長に提出されてましたが、政府に提出された政府事故調報告書も、政府や国会の対応如何によっては、ただ調査を行ないましたという記録書となるだけに終わるかもしれません。国民の視点で、政府の活動を監視していく専門家(推進派ではなく、科学的・政治的に中立の)委員会を国会に設置し、権限を有する組織として、政府の活動、新たに設置される規制官庁の活動を監視していくことが必要だと思われます。


 政府事故調最終報告書の骨子


・代替注水装置へ切り替える時、福島第1原発では第2原発に比べ、必要な措置が取られないなど対応に問題がある。

・東電などが炉心溶融分析などのためにコンピューター解析で使った数値は、実測値と乖離(かいり)し信用できない。

・冷却機能を喪失させた原因で、地震による主要機器の損傷は考えにくい。

SPEEDIは公表されていれば、避難に生かすことができた。

・水素爆発の要因は何らかの金属摩擦や漏電などの可能性が考えられる。

・東電が全員撤退を考えていたと断定できない。

・関係閣僚らは地下の危機管理センターを活用せず官邸5階で意思決定したため、情報共有に弊害があった。

・菅直人前首相の介入は現場を混乱させた


 【畑村洋太郎委員長の話】    
  
   畑村洋太郎委員長は、報告書について「被害者の視点で十分まとまっているかと言えば、そうではないと思う」と述べ、問題点が残っていることを認めています。 畑村委員長は1年2カ月に及んだ調査を振り返り、「やれる努力はやった」と強調する一方で、第1原発は今も放射線量が高く近づけない場所があるとして、「(現段階で)真相をつかむのは無理」と話していたそうです。

  また、事故の再現実験が行えなかったことに触れ、「限られた時間、陣容ではできなかった。次に調査する人たちに、ぜひやってほしい」と求めた。 国会事故調が報告書で使った「人災」など、分かりやすい言葉が盛り込まれていないことを問われると、「人災という言葉で分かった気になるのは危険」などと反論したそうです。

  関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)が最終報告の公表前に再稼働したことについては、再稼働と報告書は無関係であるとの認識を示し、畑村委員長の個人的見解として、原発事故が「あれでおしまいということはないと思う」と発言し、テロなどによって、引き起こされる可能性も指摘したそうです。

 

【その他、報告書の内容に不満な点
  東電と同じく、一方の当事者である政府の事故調査委員会であり、現在の政府の活動(事故後の対策など)について、評価や責任追求がまったくなかったことは非常に残念であり、公平さに欠け、追求が甘いと考えます。調査はやりましたという政治的な言い訳(証拠)として、お蔵入りすることのないようにしてほしいと思います。




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