生活と環境 科学者の目       (2012-002)


放射能汚染のある食材からの放射性物質による影響を低減化する方法

 (放射性セシウムについて)


 外部被曝より影響が大きいと考えられる内部被曝量を少なくするためには、放射性物質を取り込まないようにすることがなによりも重要です。しかしながら、放射性セシウムによる汚染を心配し過ぎて、放射性セシウムをまったく含まない(検出限界以下)食べ物だけを摂取する食生活にすると、栄養的にアンバランスな状態を招きやすくなり、健康を損なうことも考えられます。

   食事で摂取するカリウム(野菜や果物などに多く含まれる)が減少すると、放射性セシウムを含んだ食品を摂取した場合、放射性セシウムは体内に蓄積されやすくなるとの報告があります。カリウム不足にならないような食生活が大切です。


体内に取り込まれた放射性セシウム 

 摂取された放射性セシウムは、体内で全身の筋肉組織などの細胞に取り込まれます。体内にとりこまれてしまった放射性セシウムは、代謝により体外へ排泄されていきますが、取り込まれた量の半分に減少するのに要する期間を生物学的半減期といい、1歳以下=約9日、9歳以下=約38日、30歳以下=約70日、50歳以下=約90日となっています。


食物繊維やペクチンなど複合多糖類と呼ばれる物質の効果
 
 食物繊維など人の消化酵素で消化されない物質は、ほとんどがそのまま体外に排泄されますが、同時に放射性セシウム等を排出するのです。そのために消化管から体内へ放射性物質の吸収を減少させる効果があります。

  食物繊維が多く含まれる食材として、寒天、豆類、穀類、ごぼう、海藻類、こんにゃくなどが知られています。ペクチンを多く含む食材は、リンゴ、ミカン、モモなどの果物、ニンジン、ナス、カボチャなどにも含まれています

 放射能汚染や農薬の心配がない果物や根菜類であれば、できるだけ皮付きのまま食べると多く摂取できます。 しかしながら、ペクチン類を過剰に摂取した場合には、体に必須なミネラルやビタミンなどの栄養成分まで排泄(下痢症状)させてしまうようになることがありますので、注意も必要です。果物には、ミネラル、ビタミンやアミノ酸、ポリフェノールなど豊富な栄養素が含有されているものもありますので、お子さんにはスナック菓子やケーキ類よりも果物を食べさせることをお奨めします。


抗酸化作用を有する成分の効果
 
 体内にとりこまれた放射性物質の内部被曝による生物学的な影響は、体内で放射される放射線によって活性酸素が生じることなのです。ポリフェノールやラクトフェリンなどのような抗酸化作用を有する成分は、放射線によって生じた体内の活性酸素を抑える効果があるといわれています。
   
 ポリフェノール
    カテキン(茶、ワイン、リンゴ、ブルーベリーなど)
     アントシアニン(ブドウ、ブルーベリーなど)
     タンニン(バナナ、柿、赤ワイン、茶など)
     ルチン(ソバなど)
     イソフラボン(大豆など)
     クロロゲン酸(コーヒーなど)
     セサミン(ゴマなど)
     クルクミン(ウコンなど)
     エラグ酸(イチゴなど)


ラクトフェリン
 
 母乳(人)や牛乳(生乳)やヤギ乳などの乳、涙や唾液など粘膜からの分泌液に含有されるタンパク質の一種で、熱に弱い特徴を持ちます。熱に弱いために、日本の市場で一般的なUHT殺菌(例:120℃から135℃で1秒間から3秒間殺菌)では熱変性  するために含まれません。市販されている牛乳でもHTST殺菌(75℃15秒など)や LTLT殺菌(65℃30分)の製品であれば、半分ぐらい熱変性しないで含まれています。
 
   
※ ペクチン

   ペクチンは複合多糖類であり、増粘安定剤として加工食品等に使用されるものです。 人の消化酵素では分解されず、腸内細菌によってのみ分解される物質なので、食物繊維と似 た性質であると考えられています。

   ペクチンとして販売されている商品はリンゴ、レモンやクレープフルーツなど柑橘 類、ビートなどから抽出、加工された食品添加物として流通されているものです。 ペクチンは、陰イオンであり、セシウムが陽イオンなので結合し易く、消化管でセシ ウムが吸収されるのを妨げ、毎日の排泄で体外にそのままでていく際に、吸着したセ シウムを体外に放出する効果があると考えられます。

   食物繊維やペクチンには効果があるのですが、果物や、 ペクチンを含むジャム類やゼリーなどの食品として、他の食材とのバランスを考えて摂取するこ とで、放射性物質の吸収をある程度抑えてくれると考えられます。


※  放射性セシウムを効率的に排出するという宣伝を行いペクチンを販売しているケースもあるようですが、 体内に広く分布したセシウムをどんどん体外に放出す るというような薬理効果のある製剤であれば、副作用などリスクが伴うはずであり、医薬品として管理されているはずです。栄養補助食品の過大な宣伝効果は鵜呑みにしないように注意してください。


     放射能や放射線、また食生活や健康についても正しい知識を身に着けて、自分で正しい判断ができるようにすることが必要です。是非、健康的な生活習慣やバランスの良い食生活を日常的に心がけるようにしましょう。


※ 「放射能汚染のある食材から、放射性物質の影響を低減化する方法」については、 「エネルギー政策を考える千葉市民の会」発行のブックレットに詳しく紹介されています。

   題名 「わかりやすい放射能と放射線の知識 〜汚染食品から子どもを守る方法〜」
                                                著者:岐部健生



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